【会いにいく、能登。~能登で歩む人々をインタビュー(15)~】海浜図書室「海と本と、」 中村さんに会いに行こう(七尾市)
令和6年能登半島地震からの復興へ向け、前を向く能登の人々。今回は「会いにいく、能登。~能登で歩む人々をインタビュー~」の特集として、七尾市にある海浜図書室「海と本と、」の店主、中村さんにお話を伺いました。
七尾市中島町、穏やかな海辺に佇む「海と本と、」。
海を眺めながら、本を読んだり、コーヒーを味わったり、それぞれの時間を楽しめる場所です。店主の中村さんは、能登の自然や人に惹かれ、この地へ移住しました。
今回は、能登との出会いや暮らしの中で感じる魅力、「海と本と、」に込めた想いを伺いました。
「海と本と、」で過ごす、自分だけの時間
七尾市中島町。穏やかな海を目の前に、静かに佇む「海と本と、」。
扉を開けると、まずは大きな窓の向こうに広がる海に圧倒されます。
そして、その景色に溶け込むように本が並び、ふわりと木の香りが漂う空間は、初めて訪れたのにどこかほっとする心地よさがあります。
ここでの過ごし方に、決まりはありません。
本を読んでもいい。コーヒーを飲みながら海を眺めてもいい。何もせず、ぼんやり過ごしてもいい。
たくさん本を持って訪れたのに、「結局ほとんど読まず、ずっと景色を眺めていました」という方もいるそうです。
「2回目、3回目になると『ここで時間を過ごしたくて来ました』と言ってくださる方が多くて。」
そう話すのは、店主の中村さん。
コーヒーやお菓子、家具まで、この場所に合うものを丁寧に選び、建物も周囲の風景になじむようにつくられています。
海を眺める。本を読む。何もせず、ぼんやりする。
ここは、それぞれが自分のペースで「時間」を過ごせる場所です。
【基本情報】
海浜図書室 海と本と、
【所在地】石川県七尾市中島町長浦ソ部143
【営業時間】「海と本と、」の通常営業は事前WEB予約制です。毎週火曜日の「海辺の喫茶」は予約不要で利用できます。
営業日は変更となる場合があるため、最新情報は公式サイトをご確認ください。
店主・中村さんと能登との出会い
中村さんご夫妻が能登に移住するきっかけとなったのは、新婚旅行でした。
東京出身の中村さんと、大阪出身のご主人。当時は埼玉県で暮らしていました。
能登を訪れ、ご主人が特に惹かれたのが中島の海。
「日本海って、もっと荒々しいイメージがあったんです。でもここはすごく穏やかで。主人が、この海の近くに住みたいと言い始めたんです」
海だけでなく、食べ物のおいしさや地域の人の温かさにも惹かれ、「能登に暮らす」という選択が少しずつ現実になっていきました。そして、移住を決意し、同じ中島町内の借家で暮らし始めました。
現在の場所との出会いも、人とのご縁から。
移住後、「いつかは海の見える場所に住みたい」と思っていたところ、ご主人が気になる土地を見つけ、近所の方に尋ねたことから、人づてに所有者へとたどり着いたそうです。
いくつもの偶然とご縁が重なり、導かれるように始まった能登での暮らし。
その場所で少しずつ形になったのが、「海と本と、」でした。
「特別な普通」を感じられる場所
「私たちは、特別な普通って言っているんです」
中村さんご夫妻にとって、能登の日常はそんなふうに映ります。
季節によって変わる日の出の位置。
春にはウグイス、夏にはセミ、秋には虫の声。
冬になると、辺りはしんと静まります。
「窓を開けていると鳥の声が聞こえるんですけど、『これBGMじゃないよね』って(笑)。都会にいた時には、そういうことを感じながら暮らすことがなかったので」
海も毎日違う表情を見せます。
晴れた日は水面がキラキラと輝き、曇りの日は映画のワンシーンのような静かな景色に。
その話を聞き、「次は曇りの日に」と、あえて違う天気の日に再訪する方もいるそうです。
晴れの日だけが正解ではない。
その日、その時間だから出会える景色がある。
毎日そこにあると、つい当たり前になってしまう景色や季節の移ろい。
「海と本と、」では、そんな能登の日常を、いつもより少しゆっくりと感じることができます。
能登の良さ、人の温かさ
能登で暮らし始めて感じた魅力は、自然だけではありません。
移住してきたころ、実は妊娠していた中村さん。しばらく経ってお腹が目立つようになると、地域の方が妊娠していることに気づき、とても喜んでくれたそうです。
それ以降、身体を気遣って野菜をもらったり、魚をお裾分けしてもらうことも増えたとか。時には、体調を気遣って調理した魚を鍋ごと届けてくれたこともあったそうです。
「都会にいた頃は、隣の人が気づいたら引っ越していたということも普通でした。でもこっちでは、人との距離が近いんですよね」
そして、人と自然、人と地域もつながっています。魚がたくさん釣れれば分け合い、季節になれば祭りが始まる。
お盆や正月には帰らなくても、祭りには帰ってくる人がいるほど、地域の暮らしや誇りとして根づいています。
能登で生まれたお子さんは、いつの間にか能登弁も上手に。
東京出身の中村さん自身も、自然と方言が混ざるようになったそうです。
「自然と生活と、人とのつながり。全部がつながっているところが、能登の魅力なのかなと思います」
中村さんの話を聞いていると、美しい景色だけではない、人の暮らしまで含めた能登の魅力が見えてきます。
中村さんがおすすめする、能登の寄り道
「海と本と、」を訪れたら、能登をもう少しゆっくり巡ってみるのもおすすめです。
直江道具店
中村さんのお気に入りのひとつが、七尾市にある「直江道具店」。
古物を扱うお店で、プリンなども楽しむことができ、中村さんご夫妻もよく訪れているそう。
「古いものが好きなので、よく行っています。プリンもおいしいですよ」と教えてくださいました。
【基本情報】
海辺の杣径
もうひとつ教えてくださったのが、輪島市にあるオーベルジュ「海辺の杣径(そまみち)」。
その日に仕入れた地元の食材に合わせて料理が変わり、決まったメニューはありません。料理だけでなく、器や空間なども含めて、能登の食をゆっくりと味わえる場所です。
地震前は宿泊と食事を楽しめるオーベルジュとして営業していましたが、現在はレストランのみ営業中。宿泊の再開に向けて、宿泊棟の工事も進められています。
輪島方面を訪れる際に、中村さんも足を運ぶお気に入りの場所のひとつです。
【基本情報】
海辺の杣径
【所在地】石川県輪島市門前町鹿磯1-17(仮店舗)
【電話番号】090-4605-3737
【営業時間】事前予約制。最新の営業日は公式Instagram・予約ページで確認
【予約】TableCheckから予約
有名な観光スポットを次々と巡るだけでなく、気になった場所に立ち寄り、そこからまた次の場所へ。
ゆっくり点と点をつなぐように巡ることで、自分だけのお気に入りの能登に出会えるかもしれません。
今ここにある能登を感じてほしい!観光客の皆様へのメッセージ
能登半島地震のあと、中村さんのもとには、
「今、能登に行ってもいいのでしょうか」
という声が届くことがあるそうです。
震災があった場所へ観光で訪れてもいいのか。そう迷う気持ちもよく分かると中村さんは話します。
けれど、「海と本と、」では、あえて「震災があったから能登へ」という発信はしていません。
「私たちは、『能登』という場所に惹かれて、移住してきました。その想いも、能登の自然や人といった魅力も、震災を経ても変わっていません。個人的には、能登で暮らす一人としても、『被災地を応援したくて来た』と言われるより、『能登がいいところだと聞いたから来た』と言ってもらえる方が、より嬉しさも増すのではないかと感じています。だから、今ここにある能登を感じに、足を運んでいただけたらと思っています。」
現在は、すぐ近くにある納屋を改修し、宿泊施設にする計画も進めています。
遠方から時間をかけて訪れる人も増えるなか、これからは数時間の滞在だけではなく、もっとゆっくりと能登で過ごしてもらえる場所へ。来年初夏頃のオープンを目指しています。
「ここに来てください、というより、こういう場所もあるんだと知ってもらって、『能登に行ってみようかな』と思ってもらえたらうれしいです」と中村さんは話します。
「、」の先にある、それぞれの時間
「海と本と、」
印象的なのが、最後につけられた「、」です。
この「、」には、どんな想いが込められているのでしょうか。
中村さんに尋ねると、「この先に続くものは、人それぞれでいいと思っていて」と教えてくれました。
海と本と、コーヒー。
海と本と、お菓子。
海と本と、景色。
「何を入れてもいいし、何も入れなくてもいいんです。本があるからといって、本を読まなくてもいい。海があるからといって、海を眺めなくてもいい。それぞれが自分にとって心地いいものを見つけて、自分の時間を過ごしてもらえたら」
あえて続きを決めない「、」には、訪れた人それぞれが自由に過ごせる【余白】が込められていました。
そこで、もうひとつ聞いてみました。
「今、中村さんだったら『、』の後ろに何を入れますか?」
少し考えて返ってきたのは、
「時間、ですかね」
という言葉でした。
訪れた人から多く聞くのも、「いい時間を過ごせました」「あっという間でした」という言葉なのだそうです。
「海と本と、」
ここをきっかけに能登を訪れたとき、
あなたなら「、」の後ろに何を入れますか?