【会いにいく、能登。~能登で歩む人々をインタビュー(9)~】珠洲ホースパーク 角居 勝彦さん(珠洲市)
令和6年能登半島地震からの復興へ向け、前を向く能登の人々。今回は「会いにいく、能登~能登で歩む人々をインタビュー~」の特集として、珠洲ホースパークを営む「みんなの馬株式会社」のCOOの角居 勝彦さん(すみい かつひこ)さんにお話を伺いました。
珠洲ホースパーク(SUZU Horse Park)とは?
「みんなの馬株式会社」が運営する「珠洲ホースパーク」。珠洲市蛸島町の広大な自然の中に位置するこの施設は、いったいどのような想いでつくられた場所なのでしょうか。その成り立ちや魅力について、今回は「みんなの馬株式会社」COOの角居 勝彦さんにお話を伺いました。
珠洲ホースパークは、市が所有する約1万5,000坪の遊休地(旧・珠洲市花き栽培センター)を活用し、2023年8月1日にオープンしました。厳しい競馬の世界を戦い抜いた引退競走馬たちに、珠洲の美しい自然の中で穏やかに過ごしてほしい、そんな温かい想いから誕生した「人と馬が共に生きる森の放牧場」です。
心穏やかな環境で伸び伸びと暮らす馬たちの姿は、訪れる人々の心をも優しく癒やしてくれます。現在こちらでは、サラブレッド6頭とポニー1頭の計7頭が仲良く暮らしています。
あまり知られていない馬の生涯
今回取材させていただいた「珠洲ホースパーク」で暮らす馬たちの多くは、競走馬を引退した馬(引退馬)です。しかし、ここで余生を過ごせる馬は、世の中に数多く存在する引退馬の中でもほんの一握りにすぎません。
毎年、日本国内では約7,000〜8,000頭のサラブレッドが誕生します。その中で、一生に一度の晴れ舞台である「日本ダービー」の出走枠にたどり着けるのは、わずか18頭という極めて狭き門です。
ダービーに届かなかった大多数の馬たちも、それぞれ別のレースや地方競馬で走り続けたり、引退して乗馬や繁殖用として新しい道を歩んだりします。
しかし、成果が出せなかったり怪我をしたりした馬たちの中には、受け皿が見つからず、残念ながら殺処分(食肉やペットフード等への加工)という厳しい現実を迎えてしまう事例も少なくありません。
また、華やかなレースで活躍した競走馬であっても、現役として走れるのはほんの数年(5歳前後まで)です。馬の寿命は25〜30年ほどありますが、引退後に繁殖馬や功労馬として手厚く過ごせる馬はごく一部なのだそうです。需要や受け皿の不足から、行き場を失ってしまう馬が多いのが競走馬の世界の切実な真実です。
珠洲ホースパークでは、そうした過酷な運命にさらされる引退馬を1頭でも多く救い出し、人と共に穏やかで温かい余生を過ごせる「馬のハローワーク」のような場所を作りたい! そんな強い想いから立ち上げられました。
「みんなの馬株式会社」が掲げる想い
「みんなの馬株式会社」が運営する珠洲ホースパークは、足袋抜豪(たびぬき ごう)さんが代表として立ち上げ、JRAの元調教師である角居勝彦(すみい かつひこ)さんがアドバイザーとして参画することで誕生しました。
開設地である石川県珠洲市は、足袋抜さんの故郷でもあります。金沢市でスキューバダイビングのインストラクターとして約10年活躍された足袋抜さんは、31歳のときに珠洲市へUターン。海での経験を生かし、能登の豊かな海を撮影する海中カメラマンとして活動していました。
そんな足袋抜さんが運命的な出会いを果たしたのが、日本中央競馬会(JRA)の元調教師・角居勝彦さんです。「引退した競走馬が豊かな自然の中で余生を送り、人と共生できる『森の放牧場』をつくりたい」という角居さんの熱い想いに共感し、共に「珠洲ホースパーク」の立ち上げへと動き出します。
しかし、プロジェクト始動当時、足袋抜さんは馬に関してまったくの素人でした。それでも会社を設立する決意をした背景には、『ドリームシグナル』という馬との出会いでした。この馬は、金沢競馬場で誘導馬として活躍していましたが、精神面での不調から人を乗せることができなくなってしまいます。行き場を失いかけたその受け皿となったのが、角居さんでした。金沢市内の乗馬クラブに身を寄せていたドリームシグナルを引き受けて、何としてもその生きる場所を守ろうと必死に奔走する角居さんの姿に、足袋抜さんは深く感銘を受けます。その真摯な情熱に心を動かされ、「みんなの馬株式会社」を設立することを決意したのです。
能登半島地震が珠洲ホースパークを襲う!苦境に立たされた日々
珠洲ホースパークを運営する「みんなの馬株式会社」は、2022年1月に設立されました。2023年5月のオープンを目指して準備が進められていましたが、直前の5月5日、珠洲市を最大震度6強(M6.5)の地震が襲います。その影響で開園は3か月ほど遅れたものの、同年8月1日、待望のオープンを迎えることができました。
しかし、馬たちと共に歩み始めた矢先の2024年1月1日、今度は最大震度7(M7.6)を観測した「令和6年能登半島地震」が能登の地を直撃します。
発災直後は停電や断水により、すべてのライフラインが遮断される過酷な状況に陥りました。そんな中でも、スタッフは命がけで馬たちを守り抜きます。物資や設備の不足はもちろん、言葉を話せない繊細な馬たちの心のケアにも心を砕く日々でした。そうした困難を乗り越え、現在は電気や水道も復旧し、人と馬が共ともに前を向いて進んでいます。
この苦境を乗り越える大きな支えとなったのが、全国から寄せられたクラウドファンディングでした。震災を通じて、能登半島という地理的環境で災害が起きた際、人と馬が自立して生きていくためには『水・エネルギー・通信』の自給が不可欠であると痛感したといいます。寄せられた支援をもとに、どんな水でも飲み水に変えられる「逆浸透膜浄水装置」を導入し、まずは命の要である「水」を自前で確保できる体制を整えることができたのです。
震災を乗り越え前に進み続ける
能登半島地震から2年半以上が過ぎた今も、決して少なくない課題が残されています。復旧・復興への道のりはまだ半ばですが、角居さんをはじめスタッフ一同は、馬たちとともに着実に未来への歩みを進めています。
新たな取り組みとして、珠洲ホースパークの馬たちをモチーフにしたオリジナルグッズの企画・制作や、積極的な見学の受け入れもスタートしました。最近では全国から多くの方々が足を運んでくださるようになり、馬たちと優しく触れ合う笑顔の輪が広がっています。
そして珠洲ホースパーク内では現在、「能登のみんなの家」プロジェクトの一環として「鉢ヶ崎のみんなの家」の建設が進められています。
震災により仮設住宅での暮らしを余儀なくされた方々の中には、慣れない環境から家に閉じこもりがちになってしまうケースも少なくありません。そうした方々が気軽に立ち寄り、人や馬とふれあいながら自然なコミュニケーションを取り戻せる「憩いの場」を提供したい!そんな強い想いが込められています。施設内には多目的交流スペースをはじめ、温かい料理を楽しめる食堂や厨房、さらにはコワーキングスペースなども併設される予定です。地域の人々と訪問者が温かく集う新たな拠点が、ここ珠洲の地にまたひとつ生まれようとしています。
能登で暮らすからこそ伝えたい能登の魅力
奥能登で馬たちと暮らし、四季を重ねてきた角居さんに「この土地の一番の魅力は何ですか?」と伺ってみました。
そう問いかけると、穏やかな答えが返ってきました。「何と言っても自然です。人の手がほどよく加わり、心地よく調和した美しい緑があって、出会う人々も温かい。ここに身を置いていると、時間の流れがゆっくりと感じられるんです」
馬たちを優しく見つめながら語るその言葉からは、能登の豊かな風土への深い愛情が溢れ出ていました。
「僕がおすすめしたいのは、能登の海岸線沿いを走るドライブです。内浦から狼煙、木ノ浦ビレッジ、ランプの宿へと海岸線を車で走っていると、いつも見慣れている景色なのに、改めて『きれいだな』と見とれてしまうことがあります。
能登半島地震の後は、地震によって崩れた山肌などを目にすることもあります。『自然の力で、こんなふうに崩れてしまうんだ』と恐怖を感じることもありますが、それも含めて自然の姿なのだと思います。
能登の海は、季節によってもまったく表情が違います。夏は青い空と青い海が広がり、穏やかな表情を見せてくれますが、冬になると一変します。どんよりとした空の下、強い風が吹き、白波が立つ日本海を見ていると、その迫力に怖さを感じることもあります。
そんなふうに、いろいろな表情を見せてくれる能登の海や山そのものが、僕は観光の魅力だと思っています。自然の美しさだけでなく、その力強さも含めて、ぜひ実際に見に来てほしいですね。」
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観光に来てくださる皆様へ伝えたいこと!~角居さんからのメッセージ~
ここにいる馬たちは、競走馬としての役割を終えたかもしれません。しかし、彼らにはまだできる大切な仕事がたくさんあります。たとえば、能登で課題となっている耕作放棄地の除草作業。放牧された馬たちが雑草を食べることにより、人の手をかけずに自然な除草ができるうえ、雑草は馬たちの新鮮な飼料にもなるため、一石二鳥です。
さらに、馬には、人の心の状態を敏感に読み解く不思議な力があります。言葉を使わない馬と接することで自分自身を見つめ直す、そんな馬の特性を活かした「企業研修」プログラムの導入も、今後目指している活動のひとつです。ただその姿を眺めているだけでも心が解きほぐされていくような、馬が持つ癒やしの力も企業研修の場で大きな可能性を秘めています。馬たちが持つ計り知れない可能性を、この珠洲ホースパークから発信していくこと。それが、ここにいる馬たちの自立につながり、豊かな生涯を全うできる未来へと結びついていくはずです。
ぜひ一度、珠洲ホースパークに足を運び、魅力あふれる馬たちと触れ合ってみてください。
基本情報
SUZU Horse Park
【住所】
〒927-1204 石川県珠洲市蛸島町鉢ヶ崎36-3
【電話番号】
0120‐401‐638
【営業時間】
10時〜12時/13時〜15時
【定休日】
毎週火・水曜日
【入場料金】
一般来場者(中学生以上) 1,000円
※ 珠洲市民様・みんなの馬会員様・小学生以下のお客様は入場料無料です。
※ 牧場見学希望の方は、HPよりご予約のほどお願いいたします。